「……ああ、悪かった。お前も、呑むか?」
「いただきまチュ!」

床にすべり落ちると後ろ足で立ち、虎太郎を見上げ前足をそろえてみせる。
その様を微笑ましく思いながら己の盃を与えると、器用に受け取り酒を呑み干した。

「おかわりッチュ!」
「……ずうずうしいわね」

あきれたように瞳子が言うも、ネズミは素知らぬ顔で虎太郎が注いでやった酒を呷っている。

「……あんたって、いつもそうなの?」

ぽつり、と。
こぼされた言が自分に向いているとは思わず、虎太郎は一拍遅れて瞳子を見た。

「何がだ?」

切れ長の目を伏せ、少し怒っているかのようにも見える無表情で瞳子が言った。

「“神獣”って……要するに、神サマなんでしょ?
あのイチって人も……まぁ人っぽくないけど、あんたの部下? 配下っていうのかな。だから、あんたの方が立場が上なワケでしょ?
なのに……」
「ああ。俺に、威厳が無いってコトか」
「そう! それよ!」

人差し指を突きつけられ、虎太郎はうなずく。

「イチにもよく言われるな」
「でしょうね。あのイチって奴の方がよっぽど偉そうだもの」