(……まったく、仕様のないヤツだ)

溜息をつき、それから改めて瞳子に向き直る。

「ネズミの名付けだな?」
「っ……そ、そうよ」

一瞬の動揺ののち、瞳子はつん、と、虎太郎から顔を背ける。

(俺の“花嫁”は、いつになれば笑顔を見せてくれるのだろうな)

半月後の別れの前に、見ることができれば良いが。

虎太郎は、そんなささやかで、けれどもとても価値のあることを切に願いながら、自分の脇を示す。

「とりあえず、座ったらどうだ? 酒もある。瞳子はイケる口か?」
「……まぁ、()めなくはないわよ」
「そうか」

素直でない返答にも大分慣れてきた。
虎太郎はちょっと笑い、隣に腰かけた己の“花嫁”に盃を差し出す。

多少の警戒心を見せながらも、瞳子はおずおずと、虎太郎からの酌を受けた。

「……このお酒、美味しい」
「それは良かった」

ほうっ……と、感嘆の息をつき自らの口を指先で覆う瞳子の盃を、虎太郎はふたたび満たしてやろうとする。
今度は、ためらいなく受け入れられた。

「良い匂いがチまチュね?」

言葉と共に瞳子の夜着の合わせから、ハツカネズミが顔をのぞかせる。
鼻をひくひくとさせる姿に、虎太郎は噴きだした。