「馬鹿じゃないですか。
……ああ、そう言えば、めずらしく貴方の言葉遣い、改まったままですもんね。
そういう意味でも、私としてはあの方に、ずっと“陽ノ(ひの)(もと)”に居てほしいくらいですよ」

オレそういうの気にしねぇから〜とか言ってたのにネ〜、と。
イチは、盃を持つ手と反対の手で、あぐらをかいた自らのひざ上に頬づえをつく。

ニヤニヤと笑う表情は、すでに従者としてのそれではなく、悪友としてのそれになっていた。

「……うるせーよ」
「分かる分かる〜。惚れた女の前ではイイトコ見せたいんだよネ、コタは」
「お前……相変わらず酔うの(はえ)ぇな」
蟒蛇(うわばみ)の血は伊達かよ……)

ヘビ神とシシ神の間に生まれたというイチだが、初めて共に酒を呑んだ日に、すぐに酔いつぶれた姿を思いだす。

「ハハッ! ホンッとにコタは、可愛いなあッ!」

ぐしゃぐしゃと、虎太郎の前髪を掻き混ぜて、イチは笑う。
こうなるともう、従者としての肩書きが嘘のように、厄介な絡み酒でしかなかった。

(素面でも酔っ払いでもメンドクサイってなんなんだ……)

されるがまま、酔いつぶれて寝てしまうまで放って置くのが一番面倒が少ないのは、虎太郎も経験則で分かっている。