確かに、ここで須崎に(はずかし)められたとしても、三十代独身、彼氏イナイ歴6年の自分を、表向き同情はしても本気で気の毒に思う者などいないだろう。

性的暴行の被害者となった自分を待つのは、傷モノのレッテルと面白おかしく捏造(ねつぞう)された噂話だけだ。

(相手にされるだけ良かったね、とか、言われそう……)

所詮、世の中そんなものだ。
自分より不幸な者やみじめな者を求めて生きてる連中ばかり。

(思考ネジ曲がってるなあ、私)

自嘲を頬ににじませながら、瞳子は窓際に目をやる。
そこには、ほこりの被ったいくつもの段ボールと会議机があった。

(だけど、だからって───)

このまま、須崎のいいようにされるなど言語道断だ。
守るべきものは、真っ当に生きてきたというプライドと、後生大事に抱えてきた貞操。

(ヤラサーの私にだって、選ぶ権利くらいあるっての!)

瞳子は思いっきり、手にしたパイプ椅子を窓ガラスへ放り投げる。

「へ……?」

砕け散るガラスと破壊音。
須崎の間抜けな顔を一瞥(いちべつ)し、瞳子は会議机の上に飛び乗った。

吹き込んできた風が、瞳子の背の半ばまである髪をたなびかせる。
真下を見れば、従業員用の駐輪場の屋根があった。