気づけば操り人形さながらに、首を縦に何度も振っていた。

それまで、強い力でもって瞳子の口を覆っていた虎太郎の手が、外される。
脱力した瞳子は膝からくずれ落ちた。

「……すまなかった」

急に取り込めた酸素に咳き込む瞳子の背中をさすりながら、虎太郎が言った。

「な……にが……ッ、すま、な……かっ、……た、よ!」

信じた途端の裏切り行為に対する苦い想いを抱え、瞳子は力の入らない手で虎太郎の胸を叩く。
目には、生理的な反射で浮かんだ涙がにじむ。

「見せるつもりはなかった。
……瞳子は、生まれ育った場所に帰りたいんだろう?」
「当たり、まえ……で、しょう……ッ!」
「……なら、いま見たものは、忘れてくれ」

そう告げた虎太郎の表情は、彼らに対する怒りを忘れさせるには十分なほど、憂いを帯びていた。

(は? 何? どういうこと……?)

「“神獣”の真実(まこと)の名を初めて知り得るのは“契りの儀”を交わした相手、つまり、“花嫁(あなた)”なんですよ」
「イチ」
「いえ、これだけは言わせてもらいます。
貴女がセキ様に【声に出さずに伝えられるまで】、誰も知り得ないことを貴女は知ってしまった訳です。
これが、どういうことかお解りになりますか?」