はらりと落ちた髪。
と、同時に、ぴょこんと頭に生えたのは、大きな葉っぱのような獣の耳。
が、それよりも瞳子が驚いたのは、彼の両眼。

赤い……血の色をした虹彩(こうさい)と、縦長の瞳孔。
明らかに変化したその目から、視線がそらせない。

(なになになに……ッ!)

目をみひらく瞳子を、容貌の変わったイチが無表情に見返す。赤い布を持ち上げた。

「ここに書かれた文字を読みましたか?」
(読んだわよッ、それが何!)

胸中で怒鳴りつけてやると、イチの柳眉がきつく寄せられた。
わざとらしい溜息をつかれる。

「……読みましたってよ」
「抜かったな。悪い」
「やむを得ませんね。口を塞ぎますか」
「頼む」
(ちょっと!)

不穏な会話に瞳子の背に嫌な汗がにじむ。が、ヘビににらまれたカエルのように、瞳子の身体と視線が動かせない。

赤い(まなこ)が、じっと瞳子を見据えた。

「貴女が見た文字は、この御方──“上総ノ国”の“神獣”赤狼(せきろう)様の真名(なまえ)です。
が、それは──」

ひと呼吸置き、イチが告げる。

「口に出しては、なりません。
分かりましたか? 月島 瞳子」

瞬間、まるで視線で射抜かれでもしたかのように、瞳子の胸にイチの言葉の矢が突き刺さる。