瞳子の言葉を受け、虎太郎がその場に片ひざをつく。

何事かといぶかしく思う瞳子の右手を取り、赤い布を巻きつけた。

(なんじ)の返答、しかと受けた。
我が身、我が心は汝のもの。
我が為す全ては汝の意志によるものとす」

やんわりとした力が加えられた瞬間、瞳子の右の手のひらに、虎太郎が唇を寄せた。

ちらりと、犬歯がのぞいたのが見えた直後──
「ちょっ……痛っ!」
布越しに、親指の付け根を、かまれた。

「この儀を(もっ)て、汝と()の契りと為す」

驚きと痛みに右手を引く瞳子を見上げ、虎太郎が意味ありげに笑った。

「よろしくな、瞳子」

しゅるり、と、巻きつけられた赤い布が取られる。
何か、文字のようなものが見えた。

「それ……何?」

瞳子の目を惹きつけた二文字。漠然とだが、名前のような気がした。

虎太郎でも尊征でもセキでもない。
確か───。

言いかけた瞳子の口を、虎太郎の大きな手のひらがあわてた素振りで覆う。

「っと。イチ!」
「ん〜ッ!」
(何、いきなり!)

瞳子は早くも虎太郎を選んだことを後悔した。

そんな瞳子をわずらわしそうに見やると、イチが自らの黒髪を結った縄紐を解いた。

(は⁉)