その言葉に、思わず虎太郎を見返す。

茶色い瞳がたたえているのは、瞳子の心をおもんぱかろうとする意思。

自身でさえも気づかなかった想いを見透かされそうで、たまらず瞳子は視線をそらした。

「それ……あんたにとっては、大事な物なんじゃないの?」
「大事なんて言葉じゃ足りませんね。家宝で国宝で“陽ノ元”中の権力者垂涎(すいぜん)ものの神器(じんぎ)ですよ」
「……いいの? そんな特別なお宝を他人に渡して」

イチの横やりを受け、改めて瞳子は、虎太郎の真意を問うため、その茶色い瞳を探るように見つめた。

「他人には渡せないが、俺の“花嫁”になら別だ」

気負うことのない穏やかな眼差しが返される。

瞳子は、自分のほうが彼を試していたはずなのに、いつの間にか逆に試されていたことを知った。

(なんか、くやしい)

それでも、確認しなければならないことを重ねて問う。

「……ひとつ目の条件は、叶えてくれるのよね?」
「今日明日中にという訳にはいかないが、叶えられない願いではない。
……だな、イチ?」
「可能です。半月は要しますがね」
「半月……」