「駄目です! 何たびたびおかしなこと言ってんですか、貴方は!」
「……預けるって、どういう意味?」
「ああ、それはだな───」

目くじらを立てるイチを無視し、瞳子と虎太郎は会話を続ける。
無造作に、虎太郎が刀を差し出してきた。

「抜いてみれば、分かる。というより……」
「何これ。抜けないんだけど!」
「……そういうことだ」

受け取った刀を、瞳子は必死に引き抜こうとするが、全く手応えがない。まるで、中身のない模造刀のようだ。

「“神逐らいの剣”は神や(あやかし)は斬れても、人や動植物は斬れない。
おまけに」

言いながら、虎太郎は瞳子から刀を受け取ると、難なく(さや)から刀身を引き抜いてみせた。

「俺───萩原虎太郎尊征という、正当な剣の継承者でなければ【応えて】くれないんだ」

月明かりに、白刃がキラリと光る。
複雑な心境になった瞳子の顔を映しだしていた。

(なんだ。使えない刀)

突き放すように、胸中で文句を言う。文字通り、瞳子にとって使えない代物だったとは。

「だから、この剣を瞳子が扱うことは不可能なんだ。その代わり」

刀身を鞘におさめると、虎太郎が瞳子の目の高さに刀を水平に持ち上げた。

「これは、お前に預ける。
……それで少しは、俺を信じられそうか?」