「大丈夫~? まだ何もしてないのに過剰反応だねぇ~」

ねばりつくような口調で言いながら須崎が近づいてくる。瞳子は腰をさすりつつ辺りを見回した。

室内は雑多に物が置かれた先ほどの部屋よりは物が少なく、また、角部屋のこちらは窓が明かりとりになり、外からは満月の光が差し込んでいる。

「聞いたよ~、月島さん。
付き合ってた男が月島さん捨ててデキ婚して、それからずっとご無沙汰なんだって?」

(───は?)

まさか、何年も前もの古傷を持ち出されるとは思わなかった。しかも。

(ご無沙汰って……!)

言葉のチョイスがそもそも気色悪い。冗談は顔だけにしろ、と、心のなかで須崎をののしってやる。

「いいよいいよ~。ちゃんと慰めてあげるからねぇ」

瞳子は、側にあったパイプ椅子を手にとった。

「いい加減にしてください! 自分が何言ってるのか解ってるんですか!」

「ん~? 大人しく付いてきたのは月島さんのほうだよね? 一人が寂しくて魔が差したとしても、誰も責めたりしないよ~」

瞳子は須崎の言葉に唇をかみしめた。