いまは見えない己の【獣の耳】を示し、イチが判断を仰いでくる。

「聞きますか?」
「いや。瞳子の信用をこれ以上()くしたくない」

盗み聞きをしていたと瞳子に知られれば、彼女は二度と自分を信頼しようとは思わないだろう。
そもそもが、無いに等しい信頼度なのだから。

(よほど嫌な目に遭ったんだろうな)

“陽ノ元”へ“召喚”される以外に。

ややしばらくネズミと話込んでいた瞳子が、肩をいからせ、戻ってくる。

まるで、親の(かたき)との一騎討ちにでも挑むかのような態度に、虎太郎は口元を覆い横を向く。

(マズい。また瞳子を怒らせそうだ)

瞳子には悪いが、彼女の不機嫌な表情や仕草がいちいち虎太郎のツボで、正直、可愛いらしさしか感じない。

「……あんたの“花嫁”とやらに、なってあげても、いいわ」

瞳子の物言いに、傍らの従者のこめかみに青筋が立つのが見えたが、虎太郎は気づかぬ素振りで「そうか」とうなずきかけた。が。

「ただし、条件があるわ」

二つ、と、瞳子は細い指を二本立ててみせる。

もう我慢がならないといった様子でイチが口をひらきかけたのを、片手で制した。

「聞こう」

続きをうながせば、瞳子は少しうわずった声で言った。