それはイチも同様だったらしい。驚きを隠せないように瞳子を見ている。

「もちろんだ。じっくり考えてから結論をだせ。
……と、言いたいところだが、あいにく俺の事情もお前の状況も、そうはいかないだろうな」
「え?」
「先程のような手合いが、またやって来るだろう。
お前を助けてやりたい気持ちはあるが、今度はそうはいかない」
「……私が、あの男の“花嫁”だから?」
「というより、俺がそれを知ってしまったからだ。今度は、道理が通らない」

一度ならず二度までも、他の“神獣”の“眷属”を葬ったとなれば、虎太郎の“神獣”としての立場も危うく、また、育ての親である萩原家の者にも迷惑がかかる。

(それは、絶対に避けたいからな)

自分が何のためにこの国───“上総ノ国”に入ったのかが分からなくなる。

正直、“神獣”としての立場はどうでも良い。
が、それを言うと、またイチがうるさいので黙っておくことにする。

「じゃあ、早めに結論をだすわ」

言って、瞳子は虎太郎達からやや離れた場所へと行く。

どうやら、手の内にいるネズミに相談しているようだが、この距離では何を言ってるかは解らなかった。