ひったくるようにイチからネズミを取り上げた瞳子が、ホッとした表情を浮かべた。

「良かった……」

自らの手の内で、いたわるようになでる。その様に、虎太郎は思わず問いかけた。

「お前の“眷属(けんぞく)”か?」

大事そうに両手で抱える姿に、疑いもなく確認をしたつもりだった。

しかし───。

「けんぞく……?」

キョトンとした表情を返され虎太郎が言葉につまると、脇からイチが鼻で笑いながら会話に加わってくる。

「そんなチンケなのが“眷属”だとしたら、白い“神獣”サマの程度が知れますがね」
「イチ」

強い口調でたしなめたのち、虎太郎は瞳子に改めて()き直す。

「ひょっとして、“眷属”も知らないのか?」
「知らないわよ、それが何」
「……言い方が悪かったな。
瞳子は、いつ、この世界───“陽ノ元”に来たんだ?」

今度こそ確信をもって、尋ねる。
思い返すのも嫌そうに、瞳子が答えた。

「多分……昨日の、夜」

(やはり、そうか……!)

今宵は十六夜(いざよい)。必然、昨夜は満月となる。

“花嫁”を異界から“召喚”するのに、適しているとされる晩。