《六》

虎太郎が生を受けたのは“神獣ノ里”と呼ばれる場所だった。

“上総ノ国”の赤い“神獣”として“花嫁”を(めと)り、その“役割”を全うする───はず、だった。

「……あんた、いきなり何言ってんの?」
「そうです! 何トチ狂った事を抜かしてくれてるのですか!」
「いや、お前……俺の考えてることくらい解るって……」

(瞳子にならともかく、イチに怒鳴られるとはな)

口うるさい従者の怒りの形相に、虎太郎は頭をかいた。
どうやら先に、この者の説得にあたらなければならないらしい。

「それは! このおん……っ、御方の力になってやりたいとか、そういう、いつものお人好しのムシが騒いだ程度のものかと思ったからで……。
まさかご自分の“花嫁”になさろうなどと……! 私の想像の、斜め上も良いところですよ!」
「いや、だから、大筋は間違ってないぞ」
「大違いですよ!!」

ピシャリ、と、言い捨て、イチは瞳子に目を向ける。