いったい、いくつの名前をもっているんだとあきれてしまう。

瞳子は、差し出された男の手を見ない振りをして立ち上がった。
よろめいたが、そこは気力でもちこたえる。

「私は……月島瞳子」

おかしな名乗りとはいえ、さすがにこれを無視できるほど、礼を失する真似はできなかった。

だから、男に(なら)い、口をひらいたのだが。

「ここへは……好きで、来たわけじゃない……!」

ここに至るまでの諸々の出来事が瞳子の頭をよぎり、感情を揺さぶった。視界が、にじむ。

(そもそも何で私がこんな目に()わなきゃならないのよ……!)

どうにも立ち行かない己の現状の歯がゆさに、唇をかみしめる。

そんな瞳子を知ってか知らずか、男達は彼らにしか解らないような会話を続けた。

「イチ、聞いたか」
「耳は良いので聞こえております。
ですが、お忘れですか? その女──失礼、その御方は白い“神獣”サマの【御手付き】にございましょう」

(はあ⁉)
「手なんてつけられてないわよ!」

瞳子の横やりに、二人の男が「は?」と、同時に声を上げた。

羞恥に頬が熱くなるのを感じながら、瞳子は一息に告げる。