煌の口調にはいら立ちが露わで、セキは肝を冷やした。が、イチの口出しもなければ猪子がセキをたしなめる様子もない。
これは、イチと猪子が用意した『舞台』なのだと気づく。

セキは、白々しいと思われるのを百も承知で、煌に微笑みを返した。

「そのようなことは、とても思えませぬ。
……私にあるのは、カカ様への恩義だけ。私をふたたび“上総ノ国”の“神獣”へと据えてくださった。お陰様で、かけがえの無い“花嫁”と出逢うことができました。
他に、なんの思惑がありましょう」

(『報い』という、カカ様の言質をとった)

おそらく、それが彼らの『名案』を実行に移すための第一歩。ならば、セキの不遇に対する煌の罪悪感につけこむことが、この場において要となるだろう。

(果たして、このお方に罪を(あがな)おうなどという、殊勝な心根があるかは謎だがな)

尊臣同様、自分の為したことに後悔はしない性質(たち)に違いない。尊臣と違うのは、それが信念に基づくものでなく、己の気まぐれな想いによるものだということだ。

(良くも悪くも、気分次第。咲耶様とのことを考えるなら、あるいは───)