桔梗に留守を託し、セキがイチに連れて来られた場所は、萩原家を出奔した直後にやはりイチに連れて来られた場所───“神獣ノ里”だった。

正確には“神獣ノ里”の(おさ)であるヘビ神の住まう天空の宮。総白木造りの茅葺(かやぶ)き屋根で覆われた在所だ。

い草の香りのするそこへ平伏していたセキは、宮の主の許しを受け顔を上げる。

一段高い御座の上、黒髪をみずらに結った童子がいた。そのすぐ側には巫女装束にふくよかな肢体を押し込めた、中年の女。

「赤狼よ。猪子から聞いたが、なんじは他の“神獣”の嫁御を横取りしたあげく、“花嫁”の願いを叶えるという名目で、我が所有の“金の稲穂”を朔比古を遣い盗み出そうとしていたというのは、真実(まこと)か?」

もはやどこから突っ込んだらいいのか解らないほどの濡れ衣。
……いや、前半部に関しては解釈の相違としても、後半の盗みは聞き捨てならない。

(イチ……! どういうつもりだ……!)

隣に座る獣耳の男の様子を窺えば、明後日の方向を見ている。
これまでの経験上、この場合、セキの取るべき態度はこうだった。

「……仰せの通りにございます。
ただひとつ、訂正を(ゆる)されるのであれば、盗みではなく借り受けるということになるかと」