あきれとも安堵(あんど)ともとれる声の響きが、聞き慣れたものであることを知り、目を開けて、叫ぶ。

「なんでッ、アンタっ……!」
「待ってると言ったのに、格好がつかなくてなんだが」

言葉が続かず、呆然と馬乗りになったまま、彼を───つい先ほど別れたはずのセキを、見下ろす。
人好きのするその顔に笑みを浮かべ、伸ばされたセキの手が、瞳子の頬をなでた。

「イチから、聞いて。瞳子に痛い思いをさせるのが……忍びなかった。驚かせて、悪かったな」
「……もうっ、なんで黙ってたのよ……!」
「ああ、イチが教えてくれたのは、瞳子がこちらに戻され後だったからな……。すまない」

セキの言葉に、瞳子は疑いようもなく納得する。あのゆがんだ愛情表現が得意な、従者のやりそうなことだ。

「アンタのせいじゃなくて、イチのせいってことね……」

満月の光が照らすなか、遠く、車の走行音が響く。アスファルトから立ちのぼる匂いが、瞳子を現実に引き戻す。

(……って! セキの身体!)

重力の負荷がかかった大人を一人、受け止めたのだ。本来なら肋骨(ろっこつ)や肺を痛めていても、おかしくはない。

「いくらセキでも、なんともないワケ、ないよね……?」