息をのみ、彼の為すことを───この“返還の儀”が滞りなく済むことを、当事者として受け入れる以外になかった。

「時と空間と実在を司る、ヒノカグツチ、ヒノヤギハヤヲ、ヒノカガビコの名代とし」

いっそ聞き取れないほどの小さな声で告げながら、右手に持った(さかき)を左手に抱えた壺の中の液体に浸す。

「赤き“神獣”の“花嫁”である月島瞳子を、我が名である朔比古(さくひこ)(いわ)れと為すところ、はじまりの時へと」

手にした榊を振りながら、イチは、瞳子を囲むしめ縄の外側をゆっくりと歩いて行く。
飛び散るしぶきは、清酒のようだ。

「いま、この(とき)をもって、還す」

一周を終えたイチが、その場でドンッ……と、力強く片足を踏み鳴らした、瞬間。

「───ッ!」

瞳子は、自分の身体が、天と地を逆さまにし落ちて行くのを、感じた───。



アスファルトに叩きつけられる! 覚悟をして、ぎゅっと目をつぶった瞳子だったが。

瞳子の身を襲ったのは、衝撃はあれど、硬いマットに受け止められたような、感覚で。

続けて、衝撃の二度目。
今度は軽く済んだそれが、誰か、人に受け止められたのだという事実に、気づく。

「……本当に、落ちて来たな……」