(セキの存在が、私の『帰る場所』なんだ)

だからこそ、彼に恥じない自分で在りたい。『人』としてのけじめをつけた彼のように、瞳子も【あの世界】での過去の自分との『決別』をしたいと思った。

「……私のワガママを聞いてくれて、ありがとう」

つつまれた手のひらを、そっとにぎり返す。微笑みを浮かべれば、これ以上にない慈しむ眼差しが返された。

「瞳子の願いを叶えるのが、オレの存在意義だからな」

ちょっと笑ったセキの唇が、瞳子の右手の“証”に押しあてられる。

「愛しの“花嫁”殿の、無事の帰還を待っている」
「……うん」

直後、盛大な空咳がふたりの間に割り込んだ───当然ながら、イチのものだ。

「……お二人とも、さすがにそろそろよろしいですかね?」
「待たせてごめん。……行くわ」

イチに謝り、セキをもう一度見上げれば、ぎゅっと強くにぎられた力が抜け、そろりとセキの手が瞳子の右手を開放する。

「ああ」

一片の憂いをその瞳ににじませながら、セキがこちらを見て微笑む。

───離れたくないのは、お互いさまだ。それでも、セキは瞳子の手を放し、瞳子はセキに背を向ける。