祭壇の前にあるのは、円を描くようにして支柱と共につるされた大きなしめ縄。
その中央、囲まれた場所へとうながされた瞳子は、ちらりとセキを見やった。

戻ってくるからと彼に誓い、想いを確かめ合った夜からは、互いにそのことに触れずに今日という日を迎えた。

「大丈夫だ、瞳子。皆もついてるし、オレも、いる」

召喚当初の格好をしながらも、ひとつだけ自分の身に違うことがあるとするなら。

セキが、瞳子の右手に触れた───この、親指のつけ根にある赤い“痕”だろう。
瞳子が、赤い“神獣”───セキの“花嫁”である“証”だ。

「うん、分かってる。みんなのことも……アンタのことも、信じてるし」

イチから聞かされたこの先のこと。
“返還の儀”を行い、元の世界へと還された瞳子を待ち受けるのは、命の危機。
だが、“神籍”にある瞳子は、心臓を貫くか首を落とされるか以外で死ぬことはない───とのことだ。

(痛い目に()うことは確実だけど……)

怖くないといえば嘘になる。正直にいえば、元の世界に戻らなくてもいいとさえ、思った。
セキへの想いを自覚し、彼の側にいたいと望み、望まれているのだから。