《一》

かがり火が()かれた、広い屋敷の庭内。
その明るさがなければ人の顔すら判別が難しい闇夜───新月の晩であった。

「お支度は整いましたか?」
「うん。……変な、感じだけど」

いつもの青色の水干(すいかん)ではなく、白い狩衣(かりぎぬ)姿のイチが、瞳子を振り返って確認する。

“陽ノ元”に来てから、はや十五日目の夜。
瞳子は、すっかり着慣れた赤い小袖と黒い筒袴ではなく、庭先に集まった者たちからすれば、おそらく異様な()で立ちをしていた。

白い長袖の内衣(ブラウス)に緑色の胴着(ベスト)。同色のひざ丈の馬乗袴(キュロットスカート)───それは、こちらに召喚された当時、瞳子が身にまとっていた制服だった。

「……随分と薄い布地で作られているな。お前がいた時代は、ひょっとして列強諸国の植民地にでも成り下がってしまったのか?」
「ああ……まぁ、百合子さんのいた時代からはいろいろあったので。一応、祖国の名誉のために、否定はしておきますね」

哀れむような百合子の眼差しに、瞳子は苦笑いを返した。

(改めて言われると、言語くらいしか日本特有のものって残ってないのかも)

衣・食・住とも、欧米化の一途をたどっている現代日本。百合子の指摘も、あながち的外れではないだろう。