その前に男としての名折れでしょうよ、と。
イチの()()ましそうな嫌味を受け流し、セキは話の続きをうながした。

「で? 瞳子の“返還の儀”に関しては、問題ないんだな」
「ええ。滞りなく、猪子(いのこ)さまに準備を進めてもらっています。
ただ……」
「問題は、こちらに瞳子が戻って来たいと思っていること、か」

皆まで言わせず、セキはその先を引き取り、眉をひそめる。

そもそも、“返還の儀”とは“神獣”の(つい)なる者として“召喚”したものの、こちらの世界、あるいは“神獣”との折り合いが悪い者を還すための儀式だ。

そのことによって、新たに“花嫁”もしくは“花婿”を“召喚”するため、というのが大前提なのだ。

“神獣”の“花嫁”としてある者を、還してやるためのものではない──というのが、天ツ神の見解となるだろう。

「まぁ……咲耶様の例もありますがね……」
「咲耶様の場合、“返還の儀”ではなかった上に、本人の意思でもなかったのだろう?」
「平たくいえばカカ様による強制送還ですからね……瞳子サマと同列には語れませんが」

とかく、上位にある存在(モノ)は、前例を重んじる。それは、人の世界も神の世界も同じなのだろうと、セキは考えていた。