それはさておき……と。
ひとつ咳払いをはさむその様に、セキには続く言葉が予想された。

「……私は確か、何度も忠告申し上げましたよね?」

何やってんだ、と、いわんばかりのイチのあきれ果てた眼差しが痛い。

朝餉の席、白狼の“証”を隠していたとき同様、組紐の首飾りをまとっていた瞳子。
そののどもと、隠しきれていない昨夜の痕跡に、イチはおろか桔梗も気づいたであろうことは、想像にかたくない。

一夜が明ければ、欲望に屈した己の身勝手な所業と、瞳子の愛らしさだけが際立つ結果となった。

「……一応、自制はしたつもりだけどな」

それでも、指摘されたこと自体が気恥ずかしく、また、イチとの関係性においての甘えから()ねた口調で横を向く。

応じるイチも、従者としての諫言(かんげん)でなく、幼い頃からよく知る『虎太郎』への苦言としての色が濃いままに、大げさな溜息をついてみせた。

「あんな目立つとこに痕つけといて、よく恥ずかしげもなく言えますね。瞳子サマを帰すのが、急に惜しくなったんじゃないですか」
「いや? 瞳子が元の世界に帰りたいと望んでいる以上、叶えてやらなきゃオレの“神獣”としての名折れだろう」