おかしな抑揚と、舌っ足らずな話し方。

小さな子供のような声に辺りを見回すが、草木のせいか、それらしき人影が見えない。

「とりあえず、隠れてないで、姿を見せなさいよ!」
「ウンとね? 姿(ちゅがた)はしゃっきから見せてるチュもりなのれチュよ?」
「はぁ?」
「ちょの反応、こわいッチュね~。……コッチれチュ」

カリ、と。
足首を何かに引っかかれたような感覚がして、驚いてそちらを見下ろした。

黒い、つぶらな小さな瞳と、目が合った。

「は? ───はぁ!?」

思わず、二度見してしまう。

「ドモ。あたチは流離(しゃちゅら)いの旅のモノ、チがないハちゅカネズミなのれッチュ」

ひくひくと鼻先を上向かせ、ぴんと伸びたヒゲをそよがせる茶褐色の小さなネズミが、そこにはいた。

(私、いつからドリトル先生になったんだろ……)

ふっ……と。
瞳子は遠い目をして笑った。

幻聴ではないだろう。
いよいよここは、瞳子の知らない異世界“陽ノ元”なのだと、認めざるを得ない。

(……いや、私のアタマがおかしくなった可能性もなくはないけどさ)

だが、それを言いだしたらきりが無いことにも気づき、不承不承この現実を受け入れる。