それでも、強く刻みつけるようなくちづけを落とさずにはいられなかったのは、瞳子に危機感をもって欲しかったのと。

(オレの、醜い独占欲だ)

白狼につけられた“痕”が、瞳子ののどもとにあることの意味。それを、ずっと思考しないようにしていたのだと、気づかされた。

(瞳子を苦しめないため、コク様たちを頼った)

それは、事実。だが一番は、白狼が瞳子に為したことを消し去りたかったのだ。

最後にもう一度だけと、触れた唇の下、瞳子の肌に色づかせた、己の欲望のしるし。

涙目の瞳子に苦笑し、両腕の拘束をゆるめながらも、赦しを乞うようにその唇を求める。
息継ぎの合間「ばか」と告げた瞳子が、セキの横暴をそのひと言で水に流してくれたことを知る。

「……ほら、オレのほうが瞳子を好きだろう?」
「なに勝ち誇ってんのよっ……」
「瞳子への想いは、不完全な“神獣”として在るオレの、唯一誇れるものだからな」
「ホント、ばかみたい……けど」

腕を上げ、瞳子はセキの首の後ろへと手を伸ばしてきた。泣きそうに愛しげな笑みを浮かべてみせる。

「そんなセキだから、好き。……私、絶対、こっちの世界に戻って来るから」

待ってて、と、すがりついてくる“花嫁”を、セキはあふれる思いごと抱きしめた。