「ヤダ、私……ちゃんとアンタに返事してなかったっけ。えっと」

言いながら、人ひとり分くらい開いた空間を瞳子が狭めてきた。その距離感は、セキの鼓動を(はや)らせる。

「セキ。末永く、よろしくね───アンタの“花嫁”として、私も出来得る限り、頑張るから」

やわらかく微笑み、こちらを見上げる、その表情(かお)に。

(だからっ……オレが縁側に呼び出した意味……!)

抱きしめたい衝動にかられながら、持ち上がった理性の蓋をかろうじて抑え込む。セキは、自らの口もとを覆い、横を向いた。

「……ああ」
「ちょっと! なに、その素っ気ない態度!」
「すまない」
「……照れてる?」
「というより……煩悩と闘って、負けた」
「負けた、って───」

こらえきれない想いのまま、瞳子を自らの腕にかきいだく。つつみこむ肢体は、やわらかく、かぐわしい。

「ありがとう、瞳子」

その髪をなで、うなじに唇を寄せかけて、やめた。その衣に顔を伏せるに留める。
縁側でなければ、確実に瞳子を押し倒していただろう己のあさましい欲望を、うらめしく思う。

(……オレにはまだ、やるべきことがある)

瞳子を、彼女の望み通り、元の世界へと返すこと。
己の欲望のまま想いを交わすのは、その望みを断つことに他ならない。