《十二》

夜空には、下弦の月が浮かぶ。
日中に屋敷を覆っていた人ならざるモノたちの気配が薄れた、()の刻。縁側へと誘った瞳子の姿を見上げ、セキは微笑(わら)ってみせた。

「疲れてるところ、悪いな」
「……ううん、私も、アンタと話がしたかったし」

月明かりを斜めに受け、ほんのりと染まった頬を隠すようにして、セキの隣へと瞳子が腰を下ろす。

(……寒い思いをさせるのは気が引けたが、正解だったな)

夜着の上に(うちぎ)を羽織った瞳子を横目で見やり、セキはそんなことを思う。

瞳子の言葉も声も、表情もしぐさも。彼女を前にしたセキのなけなしの理性をこれでもかと試してくる。
日中はともかく、夜更けに二人だけという状況は、なるべくつくらない方が賢明なようだ。

ひと息つき、よこしまな想いを脇に追いやってから、セキは口をひらく。

「いまさらと言われそうだが、確認の意味で訊く。
───瞳子、俺の“花嫁”となり、俺の側にずっと居てくれるか?」

改まって訊くまでもないと思われそうだが、瞳子の一生を左右する大事なことなので、言葉にして確かめる必要があるはずだ。

瞳子は、一瞬だけ驚いたような表情を浮かべたが、すぐにくすぐったそうに身をすくめる。