瞬間、自らの意思とは無関係に()け反った瞳子を、咲耶が抱えこむ。

「────……瞳子さん!」

つかの間、意識を失っていたのか、咲耶の呼びかけにハッと見上げれば、心配そうにこちらを見つめる二人の女性の顔があった。

「大、丈夫……です」

きつく寄せられた百合子の眉根を見やり、瞳子は無理やり口をひらき、うなずいてみせる。
百合子が、ホッと表情をゆるめた。咲耶も、安堵(あんど)の息をつく。

「良かった……。一瞬、百合子さんが瞳子さんを殺しちゃったのかと」
「お前は私をなんだと思っている」
「ツンデレ美女。……あ、瞳子さんも美人さんだし……ふふ、私いま、両手に花だ」
「お前は時々おかしな言葉を遣うな。
───瞳子、気分は悪くないか?」

ぶっそうな軽口をたたいた咲耶に冷ややかな一瞥をくれたあと、百合子が改めて瞳子に声をかけてきた。
瞳子は自らののどもとに手をやりながら、百合子に向かい、頭を下げる。

「はい。むしろ、スッキリした気分です。ありがとうございます……百合子さん」

───先ほどまで、触れると硬く感じた異物のような“証”も。胸にわだかまる、居心地の悪くなるような想いも。
完全に、無くなっているのを自覚しながら。