(そっか……セキはこの為に、留守にしてたんだ)

二度と瞳子の身体に害が及ばないようにすると、言ってくれていた思いのままに。すぐに行動に移してくれたのだ。

「……痛みは、伴うぞ? それも、解っているな?」
「はい。それでも……お願いします」

白狼のために“召喚”された過去は消せないが、彼の“花嫁”である“証”───つながりは無くせるという。
そのために伴う痛みなら、受け入れられる。

じっ……と、思いを込めて百合子を見つめれば、ややしばらく見つめ返されたのち、うなずかれた。

「分かった。
……咲耶、念のため、瞳子を支えてやってくれ」
「はい」

心得たように、咲耶が背後から瞳子の両腕に手を添えてきた。

「では───歯を食いしばれ」

百合子の片手のひらが、上向く。直後、その指先の爪が伸びた。
肉食獣を連想させる長く尖る爪の先が、瞳子ののどもとを───正確には白い“痕”のあるそこを、えぐる。

「───っ!」

熱く、()けるような痛みが走り、同時に、息が止まるほどの衝撃が胸を突く。実際、瞳子の呼吸は強制的に止められたような心地がした。

(なに、この感覚───!!)

もがいてももがいても、どこにも手が届かず、後ろ向きのまま奈落の底にでも突き落とされたかのような、恐ろしい感覚につつまれる。