ここには自分たち三人の“花嫁”しかいない、ということだろう。百合子の物言いに、瞳子は居住まいを正す。

「それは……どういう意味でしょう?」
「お前が本音で話せるということだ。
本当に、セキの“花嫁”となる覚悟はあるのか?」
「え?」
「“花嫁”になることを良しとせず元の世界に帰るのなら、私がお前にこれから為すことは不要なものだ。痛みがない訳でもないしな」

淡々と告げる百合子の目の奥に、瞳子の真意を探るような怜悧(れいり)なものがひらめく。

「私に……何を、なさると言うんですか?」

触れたら切れそうな、鋭い眼差し。瞳子は、自分が彼女から何か嫌われることをしてしまったのかと、息をのむ。

「お前は、先に白い“神獣”───白狼(はくろう)とも“契りの儀”を結んだのだそうだな?」
「……はい」

二柱の“神獣”と契りを交わした不実な女だと、軽べつされているのだろうか? しかし、白狼との儀式は瞳子が望んで行ったものではない。

「ですが、私は、セキの“花嫁”として彼の側にいることを望んでいます。白狼とのことは、できればなかったことにしたいくらいで───」

言いながら、瞳子はのどもとに手をやってみせる。
赤・黒・銀で編まれた組紐の下。そこには、白狼につけられた“痕《あと》”があった。