「あれ。月島さん、一人なの?」
「……はい。お疲れ様です」

そろそろ頃合いかと更衣室に戻りかけた店内の通路途中。

声をかけてきたのは、瞳子の勤めるスーパーの店長・須崎(すざき)だった。

(あー、面倒くさい人に会っちゃった)

やれ今日の売上が悪かっただの、クレーム処理が大変だったのと、何かと愚痴ってくるからだ。

「まだ退勤の打刻、してないよね? 少し、手伝ってもらえるかな?」

言って、須崎は眼鏡の奥の細い目をさらに細め、ウサギのような前歯を見せる。

本人は愛想笑いのつもりなのだろうが、瞳子にとっては垂れた目じりと合わさって、正直、気持ちが悪い。

「……分かりました」

ここで「用事があるので、すみません」と、嘘も方便と割り切って断れる要領の良さが、瞳子にはなかった。

高校時代の友人から「あんた年中貧乏くじ引いてるよねー」と、揶揄(やゆ)されるくらいだ。

壊れた備品や普段は滅多に使わない資材などが置いてある、センター内の二階端に位置する倉庫。

空気の流れが悪いのと(ほこり)っぽさから、できれば足を踏み入れたくない場所だった。

そこに、須崎が先に入って行き、瞳子は後に続いた。