「……希海、大丈夫?」
「ん。でも───愉快ではないかな」

セキ達の方を見ようともせず、会話をするふたり。
その、次の瞬間。

「なので、さよーなら」

薄く、セキに向かい笑って見せたのは、それまで無表情だった若い男。短く鳴らす指笛に呼応するように、ふたたび黒い霧が立ちこめる。

ハッとした時にはもう、ふたりの気配は消え去っていた。

「これは……」

霧が薄れていくと共に、セキ達の居場所が変わっていることに気づく。
海岸線を見渡せる、鉛色の砂地。松林が遠くにあることを考えると、どうやら、先ほどまでいた地から、追い払われたらしい。

「“結界”の入口を塞がれたようですね。こうなると、強引に道を開くのは少々厄介かもしれません」
「ああ。イチを呼んで強引に開いてもいいが……」
「ますます意固地になられるのは明白でしょう。『()神獣(かみ)』は気性の荒い方が多いですし」

確かに、と、セキは犬貴の言葉に同意し溜息をつく。
打ち寄せる白波を見やり、セキは途方に暮れた。

(仕方ない。手間はかかるが、あの方を探すしか───)

「嫁御をもろうたと聞いて、祝いに駆けつけたが。何やら辛気くさい顔をしておるのう、コタ坊」