力を高める類いのもの、という刺青(いれずみ)の一種かと考えたが、違ったらしい。

(まずいな。オレはいろいろと仕出かしたようだ)

一概に男女の差異を持ち出す気はないが、体格の違いは一目瞭然だった。
霧という視界の悪さを差し引いても、黒い“神獣”が()の神だという事前情報から、防御に徹しても良かったのかもしれない。

頼るべき黒き“神獣”の機嫌を損ねてしまったのは、痛手だ。

「まずは、非礼を()びる。そちらの領域に無断で立ち入ったこと、誠に申し訳ない。この通りだ」

セキが頭を下げると、いまいましげに立ち上がり、そでのない黒い(あわせ)のすそをはたきつつ、紅は鼻で笑って応えた。

「謝りゃ済むと思ってるなら、お生憎さま。アタシ、お前みたいな偽善的な男、嫌いなんだよ」

(……参ったな。これでは話を聞いてもらうだけでも骨が折れそうだ)

セキが次の言葉を危ぶむなか、冷静な、しかし有無を言わせぬ口調で犬貴が口をひらく。

「では───こちらの御仁をセキ様の屋敷に連れて行ってもよろしいだろうか?」
「は?」
「我らが望むのは、黒き御力の遣い手。なにも、貴女様でなくとも構いませぬので。
……では、参りましょうか、セキ様」
「待てよ! 希海にナニさせる気だ!?」