「……イチ殿は私より、力も地位もお持ちの方なのでは?」

いぶかるような視線を犬貴から向けられ、セキは苦笑する。

「ああ、その点において不満はない。というより、かなり尽力してもらっているのも事実だ。ただ」
「主従関係、という意味ですか」
「有り体にいうと、そうだな。
……イチは、根っこの部分では俺を弟のように思っているだろうし。俺のほうも、イチを兄のように慕っていることは、否めない」

互いに遠慮がないだけに、犬貴の指摘通り、自分達の間柄は到底 主従関係とは言い難かった。

「今度こそ私がお供しますからね!」
と、黒狼(こくろう)との面会に付いて来ようとした『名ばかり“眷属”』のイチ。

結局、すったもんだの末、セキとイチのやり取りをしばらく見守っていた咲耶が口にしたのは、
「それなら、犬貴がセキくんの護りで付いて行ったらいいんじゃない?」
という、有り難くも恐縮する申し出だった。

「……兄のように慕う、ですか」
「あ、いやっ……」
「それは、セキ様の越権でしょうね」

感情を伏せたような物言いをされるのは、この犬の獣人に会ってから初めてのことで。セキは一瞬あわてたものの、すぐにそれが否定の言葉ではないことに気づく。