潮風を頬に感じながら、セキは内心 不服に思いながらも、面には出さずにいるだろう犬貴に声をかける。
「……こんなことになってしまって、申し訳ない」
彼の力をふたたび借り、降り立ったのは、松林のなか。
セキの屋敷から離れ、神域と神域を隔てている“結界”から抜け出た場所だった。
時折、薄日が差すが、どちらかというと曇り空の午刻すぎ。
「いえ、“主”の命は絶対の理ですので。お気遣いなく」
その毅然とした返答に、セキの口からは思わず本音がこぼれ落ちた。
「咲耶様やハク様がうらやましい。貴殿のような立派な“眷属”を従えておられて」
───セキは、二度と瞳子が苦しまないようにするためには、彼女の首にある白い“神獣”の“証”を取り除くことが肝要ではないかと考えた。
“証”すなわち目に見える“神獣”とその“花嫁”の「絆」は、物理的除去はもちろんだが、その本質を無くすことが必要ではないのかと。
「絆」の破壊という、おそろしくも尊い力。それは、黒い神の獣とその対となる者に宿る御力だ。
そのため、この国───“上総ノ国”の黒い“神獣”を頼る結論に至ったのだが。
