「大丈夫だ、瞳子。ゆっくり、休んだほうがいい」

よく響くセキの声が、耳に心地いい。瞳子は、誘われるように、ふたたび目を閉じた。

       *

「瞳子さん」

ハッとして、瞳子は樋村を見返した。
整った顔ではあるが、どちらかというと可愛らしい顔立ちで、女装も似合いそうだと漠然と思った。

「なに? 樋村」
「何って……あと、僕の下の名前、知ってます?」

少しふてくされたように上目遣いで見返され、瞳子は一瞬、言葉につまる。

「確か……なおや? だっけ?」
直秀(なおひで)です」
「へぇー……どっかの武将みたいだね?」
「可愛い顔してごまかしても、だまされませんよ。……ちゃんと、僕を名前で呼んでください」

コツン、と。樋村の指が抗議をするようにテーブルを叩く。

夕飯を食べに来た街外れにある古民家風の『ふらんす()』。文字通りフレンチを出す店だが、気取らず箸で食べられるところがいい。

(ムダに良い店、知ってるよね、こいつ)

「なお……ひで。ごめん、話聞いてなかった」
「いいですけどね。大した話してなかったし」

ただ、と、少し声を落とした樋村の指が、グラスを置いた瞳子の片手をつかむ。

「指輪のサイズ、聞いてもいいですか?」

薬指をつっ……と、なぞられ、いろんな意味で瞳子はドキッとした。