《四》

父親は、瞳子が中学生の時に死んだ。……恋人宅で。

酒に弱いくせに酒呑みで、胃潰瘍を患っていたのは知っていたが、まさか胃癌(いがん)になっているとは思わなかった。

「瞳子ちゃんのお父さんイケメンだったんだねぇ。若い頃モテモテだったんじゃない?」

あ、こういうのって不謹慎っていうのかなぁと、当時の友人が遺影を見て言ったのを、瞳子はいまでも覚えている。

(顔の良い男は信用できない)

それは、身近にいた男達が幼い瞳子の心に残した『生きるための教訓』だったように思う。

樋村(ひむら)だって……結局、同じ穴の(むじな)だったし)

叔父も元彼氏も、世間一般では色男の部類に入る顔立ちだった。

「少しのあいだ留守にします。何か不自由なことがあれば“花子”に申しつけてくださいね」

人の姿に戻った男は、にっこりと笑って瞳子に言い残すと、屋敷をあとにしてしまった。

(ずっと、狼の姿でいれば良いのに)

そして、あんなにも整った顔立ちをしていなければ、もう少し信用してやっても良かったのに、と。
瞳子はそんな不遜(ふそん)なことを思う。

(それにしても───)

縁側に出て、青空を見上げた瞳子は、大きな溜息をつく。