今年、瞳子は25歳になる。ひと昔前よりは結婚適齢期などと騒がれなくなったとはいえ、実際この年齢は「出産適齢期」であることは周知の事実だろう。
それこそ、身の回りの既婚者からは、子供は早く産んだほうがいいよと、言われることが増えた。

(別に、子供は欲しくないんだけど)

などと、思っていても口にだしては敵をつくるだけ。瞳子は、それらの横槍を笑顔でかわし、内心でストレスを溜めていた。

(ホント、人付き合いってめんどくさい)

何度、山に籠もって仙人になりたいと思ったことか。友人にそうこぼすと、
「あんたってホント変わってるよねー。面白いけど!」
と、本気の本音を笑われてからは、誰にも言わずにいるが。

「瞳子さん、休憩ってだいたい13時過ぎですか?」
「ああ、まぁそうですね」

向かう先が一緒なので、必然、樋村と共に歩くことになり、瞳子は面倒な奴に捕まったと思いながらも適当に受け応えをしていた。

──その結果。
(マジか……)

休憩室に向かう途中、声をかけてきた樋村から手渡されたものをかかえ、瞳子はうなった。

同じ敷地内にある、洋菓子店『シャルル・エトワール』の持ち手付きの箱。中身は間違いなく、ショートケーキだろう。