目覚めた瞬間、夢ならいいと、思った。
けれども、夢ではないことは記憶として残っていたし、最期も看取ったことも事実。

「ホントに、(ひと)りになっちゃったな……」

つぶやいても、現実は変わらない。何かの拍子に涙はあふれるが、幸い、仕事中は緊張感が抜けないせいもあって泣くことはなかった。

両親が死んで、瞳子を支えてくれた叔母───朱鷺子(ときこ)が亡くなって半年が経つ。表面上は何事もなかったかのように、瞳子は日々を送っていた。

「瞳子さん!」

従業員用の駐車場から、職場であるショッピングセンターへ向かう敷地内道路脇。いきなり呼びかけられて、瞳子は驚いてそちらを振り返った。

「……樋村(ひむら)───さん」

心のなかで呼び捨てていた癖で敬称をつけるのを忘れ、あわてて言いそえた瞳子と、それほど変わらない上背の男。瞳子より、確か三歳下だったか。

「おはようございます。あの、あと」

言って樋村が、彼についての情報源であるパートさんらいわく『アイドル顔負け』の笑顔をみせる。

「誕生日、おめでとうございます」
「…………ああ。わざわざ、どうも」

こういうところだ。瞳子が、樋村を苦手に思っていたのは。

(たとえ誕生日知っていても、妙齢の女性に言う?)