和彰の言葉通り“神獣”としての本能で、そんな瞳子を『いい匂い』がすると、感じたのだろう。

「───瞳子が、好きだ」

伸ばされた瞳子の右手にある、手のひらの“(あかし)”。そこにくちづけて改めて想いを告げれば、不満そうな声が返ってきた。

「そっち?」
「……俺も」

言って、頬に触れ、抗議の言を放った唇に親指を()わせながら、セキは苦笑いを浮かべる。

「こちらに想いの丈を注ぎ込みたいところだが……また、咲耶様に頼らなければならないのは、さすがに照れくさい」
「へ?」
「……均衡をくずしたのは、おそらく、ハク殿と瞳子が接しなかったからだけじゃない。俺が瞳子に、触れすぎたせいだ」
(それに、瞳子が『応えて』くれたせいもあるはずだが)

すでに赤く染まった頬と、動揺して目を(みは)る瞳子の反応に、もうこれ以上は言うまいと失笑をもらす。
そして、瞳子を見つめた。

「瞳子。悪いが、俺はしばらく屋敷を留守にする」
「え……?」
「まだ確たるものはないから詳しくは言えないが───少し、考えがある」

瞳子という“花嫁”を、もう二度と、苦しめないために。