「それは───」

身勝手な己の想いからだ。ただ、瞳子に惹かれただけ。瞳子と初めて出逢ったあの瞬間、心が奪われてしまった。

「瞳子が、欲しいと、思ったからだ。自分と共に在って欲しいと、無意識のうちに願っていたのだと、思う」

あまりにもセキの一方的な思いによるものだ。瞳子にすれば、迷惑な話だろう。
思わず瞳子から視線をそらし、セキはいたたまれずに言葉をつむいだ。

「俺の責任において、二度と瞳子の身体に害が及ばないようにする。本当に、すまなかった」
「……ばか。聞きたいのは、そんな言葉じゃないわよ」

畳についた拳に、瞳子の指先が触れたかと思うと、つねられた。驚いて見返せば、すねたような顔の瞳子がいた。

「それって、最初から私を好きだったってことじゃ、ないの?」
「瞳子……」

てっきり“花嫁”にされたことを苦く思い、責めているのだとばかり思っていた。セキの身勝手な想いに振り回されたと。

「俺の“花嫁”になったこと……後悔して」
「ないわよ! 馬鹿じゃないの!
第一、アンタを『選んだ』のは、私なんだから。そこ、勘違いしないでよね!」

セキは、笑った。己の不甲斐なさと瞳子の潔さの違いが、おかしかった。けれども。

(だからこそオレは───瞳子に惹かれたんだろうな)