見ると、あれほどの高熱が嘘であったかのような穏やか寝顔の瞳子がいた。その長いまつげの先が、羽毛のように揺れている。

(オレに、瞳子の側にいる資格があるのか……?)

すぐにでも瞳子に触れたい欲を抑えるセキに、和彰が言った。

「お前がこの者を欲したのは必然だ。恥入ることはない。“神獣”には己に相応しい“花嫁”たる者が匂いで解るそうだ」
「匂い?」
「直感やひとめ()れとも言うらしい。私は咲耶がそうだった。良い匂いがすると思った」
「えっ、何それ、初耳」
「のちに文献で目にしあれがそうかと納得した。……お前もそうではなかったのか?」

途中、咲耶が聞き捨てならないと口を挟んだが、和彰は構わずセキを見つめ問いかける。

「……はい。俺にとって、瞳子がまさに」
「セキ」

か細い呼びかけは、まぎれもなく己の心を射止める者の声。常よりかすれたのは、高熱による名残りか。

「セキ様。こちらを」

桔梗が差し出す椀には、白湯があった。セキは同じ“神獣”として在る和彰からの言葉を胸に、瞳子の背に片手を差し入れた。
壊れものを扱うように、慎重に起き上がらせる。

「瞳子。……飲めそうか?」
「うん。……ありがと」

気恥ずかしそうに、目もとをほころばせて瞳子がセキを見る。それに応えて、うなずきながら桔梗から渡された椀を瞳子の口へ運んでやった。
こくり、と、白いのどが嚥下(えんげ)するのを確認し、胸をなでおろす。