“証”の刻まれた、癒やしを与える御手(みて)。波紋のように、咲耶が触れた瞳子の額を起点に、白く輝く光が部屋の隅々にまで広がる。

清く澄んだ水のなかに落ちていくような感覚が、セキの身を包んだ。抗うように、セキが瞳子の手を強くにぎろうとした時。

「邪魔をするな」

短い言葉と共に、すっ……と、瞳子からセキの手を引き離すのは、白き“神獣”の冷たい片手。驚くセキに、和彰が告げる。

「お前の力が、いまは己の“花嫁”の回復の妨げとなる。均衡が保たれなかったための症状ではないのか?」

ハッとしたセキに、和彰は黙ってうなずき返す。

(生命力の偏り……)

白い“神獣”である白狼と、赤い“神獣”である自分。二柱の“神獣”と契りを交わしてしまったため、瞳子を襲った悲劇。

“花嫁”に与えられる“神獣”からの加護という名の生命力は、一柱のみであれば問題がなかったはず。

「俺の、せいだったのか……!」

セキは、うめくように片手で口もとを覆った。

助けてやるつもりが、結果として瞳子を苦しめる事態に追い込んでしまった。
愛おしいと、この腕に抱き、想いをこめて触れたこと。想いを交わす喜びに心が奪われ、瞳子のなかにある“神獣”の加護の均衡をくずしてしまったのだろう。

「セキくん」

呼びかけられ顔を上げれば、咲耶が目配せをした。