(あとで覚えてろよ、イチ……!)

実際、和解の雰囲気すら漂っていたはずの犬貴からの、刺すような視線が痛い。
おそらく、セキの“神獣”としての下のモノに対する支配力を疑問視してのことだろう。

そんなセキの胸中に反し、『自称セキの眷属』は、咲耶たちを高熱に浮かされる瞳子の部屋へと素知らぬ顔で案内した。

「トーコしゃん!」
「あなたは、こっちですよ」

セキの懐に潜り込んでいたふうが、瞳子のもとへと向かおうとする。イチの手が、そんな健気で小さな“眷属”を、横からひょいとつまみ上げた。

(───瞳子!)

ぐったりと横たわる己の花嫁を数刻ぶりに目にしたセキは、咲耶たちのことも忘れ、その枕もとにひざまずく。

「……き……、ど、こ……」
「瞳子」

うなされ、あえぐ瞳子の唇から漏れる熱い息遣い。セキは、掛け布団の端からわずかにはみ出した細い手指の先をつかみ寄せた。

「……セキ様が屋敷を離れたあとから、瞳子様が譫言(うわごと)を……」

いたわしいと言わんばかりに桔梗が目を伏せる。セキは、つかんだ瞳子の手をにぎりしめた。

「瞳子、待たせたな。───咲耶様、お願いします」
「うん、任せて」

すがるように見上げた先の白い“花嫁”が、セキを見返したあと、反対側の枕もとにひざをついた。
やわらかく微笑みながら、瞳子の額へと右手を伸ばす。

「……瞳子さん、失礼しますね」