気まずさはあれど、いまが関係修復の時ではないことも、各々の事情で察し合う。
短いやり取りのなか、セキは犬貴と見交すだけに留めた。

東風(こち)よ、この方と我を()の地へ!」

あたたかな春風の力がセキの身体を舞上げ、瞳子の待つ屋敷へと運んで行く───。



セキの屋敷の中庭に、咲耶と白虎・和彰、それに屋敷の“主”である赤狼を連れてきた犬貴が降り立つ。
異様な事態に、すぐさま庭へとやって来たイチが、開口一番、言った。

「……随分と派手なご到着で。あとで“結界”の修復に追われる身にもなってくださいよ、まったく……」
「イチ! お呼び立てしたのは、こちらだ! 失礼を詫びろ!」
「ああ、大変ご無礼いたしました。まさか、白虎様と咲耶様、御両人に来ていただけるとは思ってもみなかったもので。
……瞳子サマは、こちらです」
「イチ!」

あまりの非礼に声を荒らげるセキに、咲耶が首を横に振ってみせる。

「気にしないで、セキくん。じゃ、さっそく瞳子さんの所に行かせてもらうね」
「咲耶のいう通りだ。いまは己の“花嫁”を気にかけろ」
「……お気遣い、感謝いたします」

抑揚なく告げられるも、和彰の言葉はセキの心情を思いやるもの。
セキは、隣国の白い“神獣”とその“花嫁”の寛大さに感動しつつも、内心でイチを呪った。