「へっ、なんで俺だけ!? コイツは!?」
「私は日頃の行いが貴様とは違うからな」
「犬貴もだよ?」
「……申し訳ございません、咲耶様」
「ほらな?」
「黙れ、駄犬の分際で」

セキの前での威厳はどこへやら、咲耶に釘を刺された獣人たちは、(じゃ)れ合う仔犬のようだ。
それに冷ややかな一瞥をやり、白虎が口をひらく。

「では、行くぞ。───犬貴、赤狼を」
「かしこまりました」
「咲耶」
「……和彰(かずあき)の話の早いところ、好き」

にっこり笑って、冷たい美貌の青年に身体を寄せる咲耶。
セキはそんな彼らに面食らってしまい、思わず言った。

「あの、咲耶様……よろしいのですか?」
「当たり前でしょ! さ、行こう」
「赤狼様は、私がお連れします」
「ちょっと待った! 俺はっ?」

てっきり詳しい説明を求められるとばかり思っていたセキは、咲耶たちの無言の同意に深く感謝する。

「ありがとう、ございます!」

咲耶が大きくうなずき微笑むその向こうで、赤虎毛の図体のデカい犬が、吠える。

「いや、俺ーッ!!」
「貴様は留守番だ、阿呆め」

吐き捨てるように応えた黒い虎毛犬───犬貴と呼ばれた獣人が、白い水干のそでを上げてセキの身をつつみこむ。

「……参ります、赤狼様」
「……よろしく頼む、犬貴殿」