舌っ足らずの子供のような声が、咲耶の胸もとからあがる。次いで、その盤領(あげくび)のすき間から顔を出したのは、セキの二番目の“眷属”ハツカネズミのふうであった。

「お前なんで……って、まさか」
「ハイ。アタチがイチしゃんからの遣いでココに来たのれす。でも……」

“結界”を抜けることは容易であった。
が、この敷地内には、先ほどセキとも対峙(たいじ)した犬の獣人に代表されるように、かなり力の強い“眷属”が複数いて、それにふうは恐れをなしてしまったようだ。

もともとの物ノ怪としての力量。“眷属”として“神獣”の側に在った年数などを加味すると、ふうには酷な『遣い』であったはず。

(イチの奴、ふうを捨て駒に使いやがったな)

とても瞳子には言えぬ所業だ。
最終的には助けるつもりではあったろうが、イチのことだから、これも修業のうちと平気で言ってのけそうだ。

せめて自分だけはと思い、セキは労いの言葉をかける。

「そうか……大変だったな、ふう。よくやってくれたぞ、ありがとな。
───咲耶様、そのモノをこちらに引き取ってもよろしいですか?」
「うん、もちろん。
そういうワケで、行き違ってウチの“眷属(みんな)”がコタ……セキくんに悪さしてゴメンね。後でちゃんと叱っとくから。
───特に犬朗」