(ああ、あの当時のオレを、今すぐ抹殺したい……!)

養母である由良(ゆら)乳母(めのと)早穂(さほ)。器量()しで評判の女性に囲まれて育った『虎太郎』だ。
絶世の美女だという神話の()ノ神、此花(このはなの)咲耶姫と同じ名を冠する“花嫁”。
きっと、身の回りの女性よりも美しいのだろうと想像していただけに、子供ながらの正直な感想が出てしまったのだ。

「ううん、いいのいいの。
あの頃、私のこと変に持ち上げる人ばっかりでウンザリしてたから、コタくんが「王様、服着てないじゃん!」って言ってくれたの、スッキリしたんだよね」
「はぁ……」

例えがよく解らない。
が、当時もいまも、咲耶のこの気さくな感じと優しい気遣いが、慈愛に満ちた白い“花嫁”にふさわしいのだけは、解る。

「──お前は咲耶と、昔話をするためここへやって来たのか」

一瞬、氷室のなかに入ったのかと錯覚させるほどの低い声音が、咲耶との間のなごやかな空気に割りこまれた。

(そうだ、オレは)

真理をつく白虎の問いに、セキはぎゅっと拳をにぎり、ふたたび彼らに頭を下げた。

「無作法を承知で申し上げます。
咲耶様、瞳子を助けてやってもらえないでしょうか?」
「コタくん──あっ、いまは、セキくんか。
瞳子さんて、あなたの“花嫁”になった人だよね? ごめんね、(ふみ)に目を通したの、実はいまさっきで……」
「ちぇき(しゃま)!」