セキの前に背を向けて立つ、後ろ姿。

栗色の髪は肩先ほど。白い掛水干(かけすいかん)に、ふくらはぎ半ばまでの黒い筒袴(つつばかま)
背丈は瞳子と同じくらい。女性らしい丸みのある身体つきで、セキをかばうように広げた両腕の先、右手の甲にあるのは───。

咲耶(さくや)様!」
「───っと、旦那っ!?」

白い三本の爪痕───白い“花嫁”である“(あかし)”が刻まれている。
そして、彼女の傍らに立つのは、セキが目通りを願っていた人物。

「お初にお目にかかります、白虎様」

超然とした(たたず)まいの白き“神獣”に軽く頭を下げたのち、セキは、こちらを振り返った女性に苦笑いを浮かべてみせた。

「ご無沙汰をしております───咲耶様」
「コタくん、だよね? なんか……大きくなったねぇ……」
「咲耶様は、お変わりなく……いえ、あの……助けていただき、ありがとうございます」

呼び方と眼差しが妙に面映(おもはゆ)く、セキは、しどろもどろに言葉を返す。

あはは、と、そんなセキを笑い飛ばすのは、“下総ノ国”の白い“神獣”の“花嫁”、松元(まつもと) 咲耶であった。

「相変わらず、正直っていうか……。
ね、私のこと「サクヤ姫というからにはどんな女性(にょしょう)かと思ったら、何やら地味な面立(おもだ)ちですね」って言ったの、覚えてる?」
「いえ、あの……物知らぬ阿呆な子供の戯言(たわごと)ですので……」